ラスボス聖女に転生してしまいました~婚約破棄され破滅する運命なので、生き延びるため隣国で錬金術を極めます~
「おかわりは要らないと仰りましたが、もう少し話が続くと思いましたので」

「あ、すみません。ありがとうございます」

 勧められるがままに私は紅茶に口をつけた。

 ハーブの爽やかな香りがなんとも心を落ち着かせる。

(やっぱり美味しい)

 興奮気味だった頭がすっきりする。これなら上手く話せそうだ。

「一つだけ質問をしてもよろしいですか?」

「えっ? あ、どうぞ」

 話をこちらから切りだそうとした私だったがレオンハルト様にそれを(さえぎ)られる。

 さっきの話についての質問だろうか?

 疑問点だらけだろうから無理もない。まずは彼の疑問を解消することから始めよう。

「リルアさん、あなたの体内には二つの魂があるように見えます。いえ、正確には一つなのですが、なんと申しますかあなたの本質が二つあるように見えるのです」

「魂が二つ? 錬金術師はそんなことまで見えるのですか?」

 この人は何回私をドキリとさせれば気が済むのだろうか。

 まさかここまで見抜いてくるとは思わなかった。

 フェネキス王国がこのチートすぎる錬金公爵にスパイを何人も送るほど警戒していたのも頷けてしまう。

「誰もが見える、というわけではありません。しかし物事の本質を捉えて、それを分解して再構築するのが錬金術。生命体の本質とはすなわち魂……あるいは記憶の器と言い換えてもいい。あなたにはその記憶の器が二つあるように見えます」

「そこまでお気付きとは……」

「どういうことなのか、ご教示いただけませんか? もちろん無理強いをするつもりはありませんが……」

 ここまで理解されてしまったら、もういっそのことゲームの世界に転生したという話をしてしまおうか。

 私は目の前の規格外の錬金術師にすべてを打ち明けることこそ、悲劇を回避する唯一の道だと思えてきた。

 そのためには前世の世界の説明やら普通なら与太話だと思われるようなことを話さなきゃならないが、彼ならなんとか理解してくれるかもしれない。

「実は私、前世の記憶を持っているんです」

「前世の記憶……ですか」

「前世で過ごしたのはこの世界とは別の世界でした。その世界で私は――」

 一か八か自分がゲームの世界に転生したということを告白してみた。

 まず前世の世界について話して、そこでの娯楽にゲームというものがあるという情報も伝える。
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