地味子なのに突然聖女にされたら、闇堕ち中の王子様が迎えにきました
 
 


「一体、何が起こってるんだ」

「まさか、その軍服と紋章はガイア?」

 戦いの最中、本でしか見知ったことのない、元狩猟民族・現軍事大国ガイアの戦士の強さを口々に讃えるメンフィルの民だったが、たった3回の攻撃で魔獣を討伐してしまったことに一同静まり返った後、会場中が一斉に沸く。

「たったの3人で化け物を倒した!」「女の子1人なのに、アンバーの仲間達皆やっつけちまった」
あちこちで賞賛の言葉が沸き歓声が上がる。口笛を鳴らして拍手喝采といった状態。

 運良く、神父さんやトリシャが壇上から逃げていてくれたのと、倒されたアンバーの仲間達の体のおかげで、あの濃厚なキスシーンが公になることはなかった。

 その騒ぎにウトウトしながらも意識を取り戻したイヴ。瞳の色は赤紫からシアンブルーへ変わっている。いつもの藍色よりも明るい色だ。

 騒ぎのさなか、ガイアの4人へ駆け寄りたくても、あまりにも恐れ多くて近づけない面々。殺人ショー後だというのに、王子達へ女子達の熱視線が降り注がれていた。

 あー、あー、こんなことでいちいちうるさいとしかめっ面をするアベルに、こら顔に出すな、とグレンが小突く。

 

 そんな群衆を割って登場したのは、シルヴィア女王だった。白いロングドレスに身を包み、白いベールからプラチナブロンドのロングヘアーをたなびかせている。そのベールから覗く、神々し過ぎるご尊顔は絶世の美女そのもの。

 一瞬にして静まり返る場内。メンフィルの民でさえ、一生の間に何度お見受けできるか分からない、この国最大の意思決定権を持つ、神にも等しい至高のような存在。空気がひりつくような威圧感がある。


 ガイアの4人の前へ行くと、ゆっくりお辞儀をした。その一つの所作さえ美しい。


「ガイアの子らよ、騒ぎを鎮めてくれてありがとう」

 品のある落ち着いた声。思わずガイアの面々も圧倒されそうになる。

「こちらこそ、少しでもお力添えできたこと、光栄に存じます」

 代表として長男でありリーダーでもあるグレンが答えた。

 
 そんな2人のやり取りをよそに、どうしても黙っていられない男がいた。シルヴィアの付き人だったシャーマルだ。本当だったらナイジェルだって一言物申してやりたかった。

 しかし、シルヴィアの威圧感に恐縮してしまい、言葉が出なくなってしまったのだ。シャーマルはまだ耐性があり、なんとか言葉は発せたがその声は震えていた。


「ど、どうしてアンバーをここまで野放しに。そもそも、どうしてこんな輩を国に招き入れたのです」

 皆が疑問に思っていたことを直接ぶつけてくれた。皆息を飲んで女王の返答に耳を澄ませた。

「試す必要があったのよ。イヴの力と、ガイアの第二王子レオとの適合性を」

「わ、訳がわかりません。ちゃんと皆に分かるように説明してください」

 シャーマルの奮闘に触発され、ナイジェルもやっと声を振り絞って意見した。

「女王様、お言葉ですが。これだけの犠牲を払って何を試したかったと言うのですか」

 ナイジェルはそう言いながら怒りが込み上げてくるのが分かった。あの惨劇が仕組まれていたことなんて考えたくない。自分達が納得いく説明を受けるまで引き下がれない。
 ぐっと握り拳に力が入る。


「それはこの国の成り立ちから説明しなきゃいけません。ごめんなさい、残念だけど……私の体は、もう眠らなくては、いけないみたい……」

 活動限界を迎えてしまったシルヴィアの体。その瞬間、おそらくフェンリルの要人と思わしき、白装束に白い布で顔を隠した二人組が白い棺のようなものを持って登場した。
 シルヴィアはあくびをしながら、片手でドレスをたくし上げ自らその棺に入りゆっくり横たわる。そんな姿さえ優雅だ。
 体の周りには本当に棺のように生花が敷き詰められていた。

 なんだこれは、笑って良いのだろうか。アベルは思わず吹き出しそうになったが、厳かな神聖な雰囲気に一応堪えた。


 群衆の後ろから、しゃがれた声が棺へ向けて問いかけた。シャーマルやナイジェルと違って、声をかけることに戸惑いがない。

「女王様、差し支えなければ私の方から、その説明させてもらっても?」

「構いません、あとはよろしくお願い」

棺の中から眠そうに答えるシルヴィアは、要人に担がれ去って行った。代わりにゆっくりとした足取りで杖をつきながら、全身赤茶色のローブを纏った老婆が群衆の中心へやって来た。


「長くなりそうだな、これ聞かなきゃなんねぇの?」

 ぼそっとアベルがグレンへ尋ねる。

「レオに関わることだろ。そしてそれはガイアにも関わってくる」

「へいへい、大事な第二王子様に関わることですもんねぇ」

 アベルは諦めたかのように口を尖らせた。


「この話は長くなるから、座らせてもらうよ」

 そう前置きすると、その場へ腰を下ろした。そして小声でぶつくさ、さぁ、何から話そうか、この国の、この世界の、真実を、とボヤく。

 あぁ、自分から名乗り出るんじゃなかった。こんな大事な役目。だけどシルヴィア女王ときたら、肝心なところで力尽きてしまう。

 これでは民は納得しない。息を吐いて、大きく吸って、意を決したように話し始めた。


「まず、皆が知っている通り、この世界は魔素で充満しておる。だけど魔獣や人の強い負の感情で悪質な魔素が増えることにより、魔獣が増えたり戦争や殺人事件が増えたりする」

「昔は戦乱の世であり繰り返される惨劇に、悪質な魔素が溢れとうとう収拾がつかなくなった。いつか、それは、災厄となってこの地に降り注いだ。人の業は人が返しなさいと、その災禍の中心にいた3人が犠牲となってもう千年近く贖罪を強いられることになった。

「その中の1人、聖女の始祖と言われるエマ様が生贄となり依代となってここへ納められることで、世の争いごとも次第に沈静化していったのじゃ」

「ここへって、一体どこに」

 とある民の、素朴な疑問だった。そんなに気が遠くなる程の年月を、ここフェンリルのどこかへ人が納められているなん想像できなかったのだ。

「フェンリルの最深部にある濾過の泉じゃよ。シルヴィア様以外、誰の目にも触れられない場所じゃ。世界中の悪質な気や魔素が地下水脈から集められ、そしてエマ様により浄化されまた川となり、海となり、雨となり世界へ巡っていく」
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