円満夫婦ではなかったので
(冷静になろう……)

園香は自分にそう言い聞かせて、名木沢を見つめた。

「先日、私に会いに来たのはなぜですか?」

名木沢は園香が話を聞く姿勢になったと察したようで、ほっとした表情になった。

「説明するが場所を変えないか? ここだと落ち着かない」

「変えるってどこに?」

「車で来てるんだが……」

「車で移動は遠慮します。すぐ側にカフェがあるんですけど、そこでいいなら話を伺います」

園香は名木沢の言葉を遮り、通りの向こうを目線で示した。

(この人の車に乗るなんて、あり得ない)

彼に対する不信感が拭えた訳ではないのだから。

「分かった。君の希望通りでいい」

名木沢は園香の態度に気分を害した様子はなく、了承した。


カフェは空席が多く、隅の人の出入り少ない席を確保できた。

適当に注文をして、早速本題に入る。

「話の続きをお願いします」

名木沢は苦笑いになった。せっかちだとでも思ったのだろうか。

「少し前に君が事故で大怪我をしたと知ったんだ。日付と場所を聞いて、俺も無関係ではないと思って調べていたが不明な点が多過ぎる。さらに君が記憶喪失になっているという情報もあってますます不審に感じた。そういった事情であの日、君を訪ねたんだ」

「……それで本当に記憶がないと判断したから、何も言わずに帰ったと言うことですよね。では今日はなんの用で?」

「気になってもう一度話してみたいと思ったんだ。君は以前話したときと別人のようになっていた。近いうちにまた来ると言っただろう?」

「たしか、次は事前に連絡するとのことでしたけど」

「それは申し訳ない」

「はあ……それで、どのように変わっていると思ったんですか?」

「……元気になっていた」

「えっ? なんですかそれ?」

名木沢の返事に拍子抜けして、間抜けな声を出してしまった。そのせいでピリピリした空気が緩和したのか、名木沢も表情を和ませる。

「正直な感想だ。電話のときはとにかく暗くて、話すのが憂鬱になるような印象だったが、先日の君は理性的でしっかりしていた。俺に対して一定の警戒はしながらも、冷静に対応していた。驚いたよ。きっと本来の君の姿なんだろうとも思った」

名木沢が爽やかに微笑んだ。園香は彼に懐柔されそうな予感を覚えて目を逸らした。

(この人、他人を油断させるのが上手いかも)

気を引き締めなくてはいけない。
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