円満夫婦ではなかったので
思いがけなく知った事実に、動揺していた。

(私はどうして違うビルに行ったの?)

名木沢が言ったように心境の変化からとは思えない。

事故の少なくとも数日前までの園香は、瑞記と希咲の関係に思い悩んでいたのだから、さすがに一日二日で気持ちが切り替わることはないだろう。

とは言え、ただの間違いというのも疑問がある。

園香にとって名木沢に会うことは、かなり重要だったはずだ。

日記の文面からも、状況が好転するかもしれないという期待と不安が感じられた。

それなのに、住所をしっかり確認しないということがあるのだろうか。

元々うっかりした性格ならまだ分かるが、園香は訪問先の住所を確認し忘れたり道に迷うということは滅多にないタイプだ。

(それだけ混乱していて、普通の精神状態じゃなかったからかな)

園香は溜息を吐いて、化粧室の鏡の前に立った。

顔色が悪く浮かない表情の自分を見ると憂鬱になる。

けれどそろそろ戻らないと、名木沢が不審に思うだろう。

(これ以上悪いことが起きる訳じゃないし)

想定外の事実に動揺してしまったが、名木沢に会っていなかったとしても現状は変わらないのだから、今は少しでも多く彼から情報を得ることに集中した方がいい。

園香は気持ちを切り替えて、化粧室を出た。

名木沢は頬杖をつき窓の向こうを眺めていたが、園香が戻る気配を感じたのか振り向きにこりと笑みを浮かべる。
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