円満夫婦ではなかったので

「大丈夫か?」

気づかうような声だった。

今日の園香の態度は、自分でも酷いと思うが気を悪くした様子が見られない。

(イメージよりも優しい人に感じる)

しかし気を許すのはまだ早い。

「大丈夫です。お待たせしてしまいすみませんでした」

そう言いながら席に着くと、名木沢はほっとしたように表情を和らげた。

「あの、お時間は大丈夫ですか?」

「ああ。今日の仕事は済ませて来たからね。園香さんは?」

「私も大丈夫です。ではいくつか質問させて貰っていいですか?」

「構わないよ。でも何か食べながらでもいいか? 昼食をとっていなかったことを思い出したんだ」

名木沢が苦笑いを浮かべながら言う。

「ええ、もちろんです」

園香は自分の近くにあったメニューを差し出した。

「ありがとう。園香さんはどうする?」

「私は……そうですね。いただきます」

たいして空腹は感じていないが、彼が食べている間、ぼんやり待っているのは間が持たない。

名木沢は焼カレーセット、園香はカルボナーラを注文し、コーヒーのお代わりも頼む。

「ここにはよく来るの?」

まるで友人との世間話のような軽さで、名木沢が問いかけてきた。

「ときどきランチに来ます」

とくに気に入っている訳ではないが見通しがよい店内だから、名木沢のような警戒が必要な相手と話をするのにいいと思っただけだ。

他愛のない話をしながら、食事をする。

名木沢は油断ならない人物だけれど、話がしやすい人だ。
あまり知らない相手だと言うのに、会話が気まずかったり苦痛ということがない。

共通の話題であるお互いの配偶者についてはあまりに重い内容なので、無意識に避けていた。

自然と仕事の話がメインになる。

「働いてまだ間もないのに、すっかりベテランの貫禄だな。さすがソラオカの令嬢だ」

褒めているのか態度が大きいと嫌味を言っているのか、判断がつきかねる内容だが、名木沢の表情を見る限り含みはない。

「会社のことは元々熟知してますから」

「そう言えば、結婚前は本社で働いていたそうだな」

「ええ……私のこと調べたみたいですね」

名木沢の顔に気まずさが浮かんだ。
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