円満夫婦ではなかったので
「多少はね。まったく知らない相手と会う場合は、事前に情報収取するようにしているんだ」
「それは理解できます。ちなみに私の情報はどんなものなんですか?」
客観的な園香の評価はどのようなものなのだろうか。ふと気になって思いつきで聞いただけだった。
けれど名木沢の答えは驚くものだった。
「君から連絡を貰ってすぐに確認して、その後殆ど更新していない内容だが……冨貴田園香、27歳。ソラオカ家具店の社長令嬢で、大学卒業後に同社に入社。広報部に所属していたが結婚を機に退職。現在は専業主婦で夫は冨貴川瑞貴、そのくらいだ」
「……その情報はどこかの調査機関に依頼したものですか?」
「ああ。信頼出来る相手からの情報だ」
「そうですか……」
園香は名木沢から目を逸らし、コーヒーのグラスを手に取った。
なんとか平静を装っているが、内心かなり戸惑っていた。
(広報部勤務ってどういうこと? 経理部の間違いじゃないの?)
覚えていない期間に、異動していたのだろうか。
(日記には仕事のことなんて書いてなかったから、何も分らない。でも……)
園香はもともと広報部勤務を希望していた。会社の方針で経理部に配属になったが、いつか異動出来たらと思っていたのだ。
(夢が叶ったのに、すぐに退職しただなんて、おかしくない?)
それに考えてみたら、会社勤め時代の同僚たちと、ずっと連絡を取っていない。
いくらなんでも不自然だ。
園香が社長令嬢だと言うことは、同僚の皆が知っていることだった。
だから、距離を置かれていると感じることはあったけれど、何人かは、かなり親しくしている相手もいたのに。
事故に遭い、瑞記との夫婦関係に頭を悩ませているあまり、他のことが疎かになっていた。
(元同僚からの連絡がないことに気付いていなかったなんて)
会社のことは父と彬から聞けたので、他から情報を得る必要はなかった。
園香が異動したという話も、偶々か出てこなくて、不審に感じるきっかけがなかった。
ずしんと気分が重くなった。
恐らく何かトラブルが有り、関係が悪化してしまっているのだ。
だから気軽に連絡をして来なくなった。