円満夫婦ではなかったので

(退職前に何かあったのかな?)

喧嘩でもしたのだろうか。メッセージのやり取りの記録もないし、分からない。

「園香さん? どうしたんだ?」

「あ、すみません、なんでもないです」

怪訝そうな名木沢の声に、慌てて返事をする。

(考えるのは後にしないと)

思ったよりも名木沢から得る情報は重要だ。少しでも多く話を聞かなくては。

「……あの、実は記憶が戻ったと言っても、多少はまだ混乱している部分もあるんです。だからつい考え込んでしまって」

苦しい言い訳だが、記憶喪失から回復した状況が実際どんなものなのかなんて、医者でもない限り正確には分からないだろう。

思った通り、名木沢は疑う様子はなく「そうなのか」と相槌を打つ。

「大変だな。いずれは完全に回復するのか? 医者はなんて?」
「怪我はほとんど治っているし、記憶の方は焦らずに回復するのを待つのがいいって」

以前、言われた内容をそのまま伝えたが、嘘を言うのはかなり心が苦しくなる。
同時に平然と人を騙すことができる瑞記たちへの嫌悪感が渦巻いていた。



食事を終えると、園香は居住まいを正して名木沢を見つめた。

「先ほど、状況が悪くなったというようなことを仰っていました。それは私の夫と希咲さんの不倫についてですよね?」

遠慮のない問いかけだから、名木沢がどう反応するのか分からなかった。

そもそも彼は妻の不倫についてどう思っているのだろう。

怒っているのか、悲しんでいるのか。

「ああ。どうやら本格的に始まったようだな」

名木沢から感じるのは、怖いほどの無関心だった。




< 135 / 170 >

この作品をシェア

pagetop