円満夫婦ではなかったので
「……ずいぶん冷静なんですね。自分の奥さんの話なのに」
名木沢の表情を窺いながら言う。彼は困ったように微笑んだ。
「園香さんのように恋愛結婚をした訳ではないからか、感情的にはなっていないな」
彼について分かる範囲で調べたことがあるが、結婚については何も出てこなかった。
恐らく意図的に隠しているのだろう。
ただ彼が財界では有名な神楽家の親族とは分かっていたので、恋愛結婚ではないかもしれないと予想はしていた。
(ふたりはお見合い結婚なのかな)
希咲の個人的なことは分からないが、彼女も政略結婚をするようなお嬢様なのだろうか。
「お見合い結婚かなにかだとしても、夫婦としての情はあるんじゃないんですか?」
「いや、これといって」
名木沢が醸し出す雰囲気は気さくな感じで、冷たさはまったく感じない。
それなのに、希咲に関することは驚くくらいの割り切りがある。
(もしかしたら夫婦仲が最悪なのかな?)
だから希咲は不倫をしているのだろうか。
彼女は瑞記と付き合う前にも、他の男性とトラブルを起こしているくらいだし。
「妻への情がないから、不倫を放置しているんですか?」
この質問に、名木沢は少し考え込んだ。
「……彼女が外で男遊びをしているのは大分前から気付いていた。でも放っておいたんだ。俺より気に入る相手が現れて出て行くなら都合がいい。だが今はよくない態度だったと思っている。俺たち夫婦の問題に留まらず、他人を巻き込んでしまっている」
名木沢の言葉に、園香は咄嗟に言葉が出て来ず、俯いた。
(彼は離婚がしたいんだ……)
だから希咲の、園香から見ると既婚者とは思えない行動に、文句ひとつつけなかった。
止める者がいないのだから、希咲の行動はエスカレートしていき、現在に至る。