円満夫婦ではなかったので

「あれから冨貴川とはどうだ?」

考え込んでいた園香は、彬の言葉で我に返る。

「変わりない感じかな」

その返事で彬は上手く行っていないと察したようだ。

「名木沢希咲の存在が問題なのか?」

「え?」

予想外の言葉に園香は目を瞬いた。

「……彼女と瑞記の関係は一般的じゃないと思うけど、今となってはあまり気にしてないよ」

彼女の存在がなくても、瑞記は問題が多い夫だ。夫婦間に誰かが入り込むのが不快と言う以前に、そもそも夫婦が成り立っていない。それにしても。

「ねえ、前から思ってたけど、やけに名木沢さんを気にしているね。彬がそこまで女性を気にするのを初めて見る」

確かに客観的に見ると魅力的な女性だったけれど。

彬は非情に言い辛そうにしながら口を開く。

「園香に知らせるつもりはなかったが……名木沢希咲は前職の美倉空間デザインを解雇になってるんだ」

「解雇? それってどういう……」

なぜ彬が個人的な事情を知っているのだろうか。

「ソラオカ家具店は美倉空間デザインと取引があったのは知っているだろ? 名木沢希咲は仕事で知り合った相手とプライベートでも繋がり問題を起こしたんだ。その責任を取る形で退職をしたが、実際は解雇だ」

「うちの社員と……ねえ、その問題って具体的にはなに?」
「不倫だ。男の方の家族にばれて大事になった」

園香は目を見開いた。

「それっていつの話?」
「二年前の二月」

彼女が瑞記と仕事を始める少し前だ。

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