円満夫婦ではなかったので

「そろそろ、チェックアウトしなくちゃね」

行為の後もベッドの中で幸せに浸っていたが、希咲の声で現実に連れ戻された。

「もうそんな時間か……」

瑞記はがっかりと溜息を吐く。幸福な時間が過ぎるのはなぜこうも早く感じるのだろう。

「シャワー浴びて来ないとね」

「そうだね」

仕方なく体を起こし、床に落ちたままの服を拾い上げる。背後で希咲も起き上がった気配がした。

「ねえ瑞記、私いいことを思いついちゃった」

「いいこと?」

瑞記は振り返り、首を傾げた。

希咲はその思いつきが相当気に入ったようで、明るい笑顔になっている。

「今日の予定は移動だけでしょう?」

「そうだね」

瑞記はスケジュールを思い出しながら頷く。

今日はクライアントとの打合せなどは入れていない。東京に戻ったら事務作業に充てるつもりでいた。

「明後日の約束もリスケしたいって言われたでしょう? だから今日と明日はオフにしても大丈夫じゃない?」

「……確かにオフに出来るけど、でも処理しなくちゃならない事務作業が溜まってるんだよな」

「それはあとで頑張ってやれば大丈夫。でも連休は今しか取れないんだよ?」

希咲が瑞記ににじり寄る。

「だからこの連休はふたりで過ごさない?」

「え……ふたりで?」

あまりに魅力的な提案に、瑞記の心が舞い上がる。
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