円満夫婦ではなかったので
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言い争いの後、家を飛び出した瑞記は、それ以来帰宅せず連絡すら寄越して来ない。
無責任な言動に、ますます彼に対する信頼度が低下している。
七月一日。出勤当日の朝、早めに起床した園香は、余裕を持って一通りの家事と身支度を済ませた。
初日らしいシンプルなネイビーのスーツと、書類やノートパソコンが入るサイズのバッグは新しく購入したものだ。ヘアサロンに行き髪を切り整えた。肩先でくるんと内巻きにカールしている髪を指先でいじると新鮮な気持ちになる。
瑞記との関係は最悪だけれど、今日から新しい生活がスタートするのだと思うと、久々に前向きな気持ちになった。
(今は瑞記のことは考えないようにしよう。それよりも早く仕事を覚えて自立しなくちゃ)
瑞記は自分から離婚を言い出したくせに、いざ園香が応じると動揺し最後には逆ギレした。
園香に対して愛情がないことは分かっていたから彼の行動は意外だったけれど、恐らく世間体を気にして離婚をする勇気がないのだろう。
何にしろ大した覚悟はないはずだから、園香が強く離婚を希望すれば諦めるだろう。
(話し合いが上手くいかなかったら私がひとりで暮す家を借りて、出て行ってしまえばいいんだよね)
園香にはもう瑞記に歩み寄る気持が微塵も残っていない。
過去の自分がなぜ彼と結婚したのかは未だに謎だけれど、もう考えないことにした。