ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「刷り込みって言うのか? 味噌汁飲むとやる気が出てくるし、パンの焼ける匂いだけでリラックスできる気がする。朝食なんて時間の無駄だと思ってたけど、気分が切り替わって、悪くないな」
目を細めてシンプルなバタートーストを頬張る彼は、オフィスにいる時とは違い、本当に心から寛いでいるよう。なんとなくこっちまで嬉しくなって、頬が緩んでしまった。
仕事や学校のある日はご飯、お休みの日はパン。昔我が家では、これが朝の定番だった。お父さんも『米を食べると仕事モードになる』って絶賛してたっけ。
「気に入っていただけて、よかったです。母直伝のルーティーンなんです」
「そうなんだ。お母さんの」
お継母さんが来てからは、和食嫌いのキララに合わせて毎朝強制的にパン食になってしまったけどね。
「不規則なシフト制の仕事をする中で、休日を楽しもうとして編み出したスタイルだったみたいです」
「へぇ、シフト制って、どんな仕事? 看護師とか?」
「いえ、スチュワーデスです。今でいう、CAですね」
なるほど、と言う風に頷きながら貴志さんは微笑んだ。
「じゃあ、織江が英語や中国語を勉強しようと思ったのも、お母さんの影響ってことか」
「あ……そうですね、そうかもしれません」
国際線のCAだったお母さんは、いろんな国を知っていた。
――自分の目でいろんなものを見て、肌で感じて、いろんな経験を積んでね。世界は広いわ。いろんな人がいて、言葉や文化があって、素晴らしいものがあふれてる。そしてそれは、家の中じゃ見つけることのできないものなの。
大学時代にはバイト代を貯めて留年しない程度に短期留学を繰り返したし、社会人になってからは休みのたびに海外旅行。
それはきっと、あのお母さんの言葉があったからだった――と思い出に浸っていると、ふと視線を感じた。
「やだ、すみませんっ。私の話ばっかり……つまんないですよね、こんなの」
苦笑して肩を縮こまらせる私へ、「どうして?」と貴志さんは目を丸くする。
「オレは聞きたい。織江のこと、もっと知りたいから」
「っ……」