ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

「おや、久しぶりだねぇ。お友達はまだよくならないの?」

アパートから出ようとエントランスに差し掛かると、どこから湧いて出たのか、管理人の中田さんに声をかけられた。
ギクリと跳ねた肩を不自然にならないようゆっくり戻して、そのまま微笑を貼り付けた顔で振り返る。

「はい、そうなんです。一途に思いつめる子で……」

そうかいそうかい大変だねぇ、と真剣に同情されてしまい、ちょっと申し訳ない。

というのも不在の理由について、『失恋した友達が自殺を考えるほど落ち込んでいて一人にしておけないため、彼女の家に泊まり込んでいる』、と説明しているから。

最近嘘ばかりついてるな、と心が痛むのは事実だが、塩沢さんひいてはお父さんに、“男性と同居してる”、なんて情報が渡ってしまうのはもっと困る。

ひとまず中田さんの目さえ誤魔化せば、なんとかなるだろう。基本、あの家の人たちは私に興味なんてないんだから。
そして今の所、その作戦は上手くいってるみたい。

「じゃあ、また来週戻ってきますね」

私は愛想笑いでその場を取り繕い、それ以上の質問から逃げるように足早にアパートから立ち去った。

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