ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
駅前の青葉屋で買い物を済ませて、目視できるひと際目立つタワマンへと帰り道を辿る。
それは、普通なら徒歩10分程度の道のり。
ただ私の場合、その倍以上かかる。理由は――紫陽花だ。
「わぁ、また新しいやつ咲いてるっ」
この辺りは新興のセレブ街で、うちの実家周辺とはまた違うおしゃれで斬新な豪邸が建ち並んでいるんだけど。
玄関先や敷地周りに、紫陽花を植えている家が結構あるのだ。
しかもさすがセレブ邸、庭木にもお金をかけているらしく。
一般的な一重咲き・手毬形の花だけでなく、愛らしい八重咲き、上品なガクアジサイやゴージャスな西洋アジサイまで、家ごとに種類も様々。
開花時期を迎えたおかげで、ようやくそのことに気づいて。
紫陽花好きな私としては、チェックして歩くこのひとときがかなり楽しかったりする。タワマンに引っ越して、唯一よかったと断言できるポイントかもしれない。
「さすがに、レディミツコはない、よねぇ……」
いくら探しても、やっぱり見つけるのは無理か。
昔からある種類だし、色も見た目も割と地味な紫陽花だからな。私は奥ゆかしい風情で好きだったけど、新しく植えようという人はいないかもしれない。
でも、もう実家の庭はなくなってしまったし、できることならもう一度見たいな……
足取りを遅くして、そんな風に物思いにふけっていた時だ。
B! B!
背後でクラクションが短く鋭く響いた。
何事かと振り向けば、シルバーの外車が一台、するすると真横までやってきて停車する。
え、何……?
身構える私の前で運転席の窓が音もなく開いた。
「お姉ちゃん? 何やってんの?」
甲高い声が、私を呼んだ。