ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

「き、キララっ?」

「ほんとにお姉ちゃんだった。何やってんの、こんなところで。しかも……何その荷物」

サングラスを外した怪訝そうな目がネギの飛び出したマイバックをじろじろ見ていることに気づき、冷や汗が流れた。
「ええと、友達が、風邪ひいて寝込んでるっていうから、看病に……」

「友達? こんな街にお姉ちゃんの知り合いがいるわけぇ?」

周囲に建ち並ぶセレブ建築を見上げて、バカにしたように鼻で笑うキララ。苦しすぎた、やっぱり無理だったか……と目の前が一瞬暗くなった、のだけど。

「まぁ、お姉ちゃんも一応純金(・・)だもんね。この辺に住めるくらいの友達はいるか」

助かった……勝手に納得してくれたみたい。

(ちなみに、純金、というのは私の母校“金ノ宮(きんのみや)学園”の生徒のことを指す。セレブ御用達の私立校で、幼稚園から大学までずっと金ノ宮で学ぶ子を“純金”、途中から入学した外部生を“メッキ”と呼ぶ悪趣味な伝統があるのだ)

「キララはどうしてここに?」

「ん? あたし? あたしはぁ、新居の内見にね。あそこよあそこ」

自慢げな口調で言って、ラインストーンの輝く指先を呼ばす。
その先を追った私は、ギョッと目を剥いた。
まさしくそこには、これから帰るタワマンがそびえていたから。

絶句した私のことを、どうやらキララはあまりの豪華さに驚いてると思ったらしい。車内からくすくす、含み笑いが聞こえた。

「素敵でしょう? ようやく5階に空きが出たって聞いてね。まぁ低層階だけど、仕方ないわよ。上は全部、芸能人とかIT社長とか、有名人たちに押さえられちゃってるんだもの」

「でっ、でも……新居はうちの敷地に建てるんじゃないの?」

庭をわざわざ潰してまで場所を作ってたじゃない。
私が指摘すると、もぎたてのチェリーのように艶やかな赤い唇が歪んだ。

「あれはお母さんたちが勝手にやってるだけ。同居なんてそもそもOKしてないもん。やっぱり新婚で住むのは、タワマンじゃないとねー。まぁ、せっかく建ててくれるっていうし、たまには泊りに行くかもしれないけど」

“たまに泊りに行くかもしれない”、それだけのためにあの見事な庭を潰したの? お母さんの紫陽花まで抜いてっ……

マイバック持っててよかった。
さもなきゃ、掴みかかっていたかもしれない。

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