ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
ロックの外れる音で我に返り、冗談じゃない、と後ずさる。
コンシェルジュさんに思いっきり顔バレてるもの。挨拶なんかされたら……っ!
「え、遠慮しとく……予定あるし」
「何よ、いい機会じゃない。お姉ちゃんもお見合いするんでしょ、自分の新居の参考にすれば? どんな相手か知らないけど、レベル下げれば手が届くタワマンもあるんじゃない?」
キララはまだ、私の相手が誰だか知らないらしい。どうせお継母さんが、“上手くいかないから知らなくていい”とか言ったんだろう。
「ほんとにいいから。友達待ってるし」
「何よ、あたしが見せてあげるって言ってるんだから、ありがたく思いなさいよ!」
マズい、目が吊り上がって来た。これは癇癪を起す前兆。
彼女はこうやって、いつだって自分の言い分を通してきたのだ。
クラクションでも鳴らし始めたらどうしよう、と段々焦ってくる。
ここは一旦乗るべきだろうか。
でも――と迷っているさ中。
唐突に、キララが助手席を振り返った。そこで私も、微かに車内から漏れてくるその音が携帯の着信音であること気づく。
知り合いからだったのか、彼女はすぐそれへ手を伸ばした。
「……もしもーし、山内キララです、どうもーごめんなさい、ちょっと遅れちゃって。今向かってま……は? なんですって? 昨日の内見客が決めた!? ちょっと待ちなさい、あたしが買うって言ったでしょう! 早い者勝ちだなんてズルいわよ! ちょっと、もしもし!? もしもーし!!」
通話を切るなり、助手席に勢いよくスマホを投げつけたキララ。
「絶対あたしが住むんだから!」と叫ぶと私のことなんて一顧だにせず、弾丸と化した車でそのまま走り去っていった。
はぁ……助かったぁ……
袋を地面に投げ出し、がくんとしゃがみこんでしまう。
“昨日の内見客”っていう人が無事に契約できることをひたすら祈りつつ、乱れた呼吸を整える。
さっき感じた嫌悪感がまだ身体の中に残っているような気がして、ギュッと強く胸を押さえた。