ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
2年前、あるトラブルのせいで職場に居づらくなったのがきっかけで、私は一星百貨を退職。働き口を探して派遣会社に登録した。
いきなり大手の商社に決まった時はビックリしたけど、独学で磨いた英語と中国語が評価されたんだって随分喜んだっけ。
でも……実はなんのことはない、お父さんが裏で手を回していたのだと後から派遣会社の人に聞かされた。
もちろん、娘が可愛かったからじゃない。
一星の社長令嬢が変なところで働いて、噂になったら困るから。そしてあわよくば、将来有望なエリートに娘を押し付けるため――
と、まぁお父さんの思惑はともかく、私は思いのほか新しい環境にすぐ慣れた。
最初こそ畑違いの職種と業界に戸惑ったものの、今の職場の方が断然居心地がよかったから。
外資系だけあって実力主義が徹底していて、派閥っぽいものもなく、“飲みニケーション”みたいな古い慣習もない。
社員同士の距離感もちょうどよくて、理想の職場だとすら思う。
だから中途採用試験の誘いを受けた時は、受けてみようかとかなり悩んだ。
悩んで悩みぬいて……けど結局断った。
だって採用枠が用意されていたのは、営業や開発といった今の部署とは違うところ。秘書室勤務は諦めなくちゃならない。
それはどうしても嫌だった。
遠くから見ているだけの叶わない想いだとしても……少しでも長く、彼のそばにいたかったから。