ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「おい、そのケーブル取って」
「はいはい、聞こえてますけど、でも――」
「えー、今こっち手一杯なんですよー」
塩沢さんにお礼を言って車から降り、ビジネスマンやOLに交じって目的地であるビルへ近づいていくと、異質なざわめきが聞こえてきた。
入口付近に20人くらいの、明らかにオフィス街とは無縁そうなカジュアルな服装の集団が見える。
カメラを構えた人、マイクの調子を確かめる人、何やら携帯で怒鳴る人……
マスコミの取材クルーだ。
あぁまたか、とただでさえ低空飛行のテンションがまた一段、下降する。
今度はどんな美人女優がお相手なのだろうか、と。
「ヴィラモデルの中条瑠衣ですって。副社長と一緒にホテルへ入って行くところ、週刊文冬が撮ったらしいわ。ネットに出てた」
まるで私の心の問いに答えるような台詞が聞こえて振り返ると、メリハリボディをマニッシュなパンツスーツに包んだ美女が「おはよ」、と笑っていた。
「ノリちゃん! おはよう」
彼女は秘書室勤務の同僚であり、幼馴染でもある嶋典子。
未経験の仕事で戸惑う私に、何から何まで教えてくれた大恩人だ。
社会人になってからはお互い忙しく、なかなか会えなくなってしまったのだが、まさか派遣先で再会するなんて……。何年分の幸運を使い果たしたのかと心配になるくらいラッキーだった、とつくづく思う。
「ほんとに節操ないわね、うちの御曹司様は」
「うーん……仕方ないよ。だって素敵な人だもん」
チリ、と痛む胸は無視することにする。
そう、副社長の奔放な私生活は今に始まったことじゃない。ワイドショーのコメンテーターなどは、『うちの娘とは絶対に会わせたくない』と憤るほどだ。
だからこそ、先週末のような無謀な計画を思いついたんだけど……。