ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
遠慮がちな声がして、そっと繋いだ手が引かれる。
それでようやく後ろにたくさんの人が待ってることに気づいた私は飛び上がり、「すみませんっ!」とそちらへぺこぺこ頭を下げた。
「ごめんなさい、ぼんやりしちゃって」
「気持ちはわかる。つい見惚れちまうよな、ここまで綺麗だと」
鈍くさい私がいけないのに、彼は責めることもなくいつになく柔らかい笑顔で見下ろしてくる。
途端。
あちこちから湧く女性たちの小さな悲鳴。
うわ、すごい。
ピンク色の視線が見える……。
それが隣に立つたった一人に注がれている状況を理解した私は、大慌てで距離を取ろうとした――ところが。
「っ、貴志さ、……」
「ほら、しっかり掴まってろ。転ぶぞ?」
まるで放すつもりはないって決意表明みたいにさらにきつく手を握り込まれてしまい、心臓が飛び出しそうなほどドキドキした。
「は、はい」
きょ……今日の貴志さんはいつにも増して甘い、気がする。
視線とか、仕草とか……気のせい?
いつもならもっと、揶揄って弄ってくるのに。
なんか、調子狂うな。
こんな感じで、今日一日大丈夫なの?
なんて。加速する鼓動を持て余していた私だったけど。
幸い、歩いているうちに紫陽花へ意識が移り、緊張は少しずつ和らいでいった。
その後も結局スマホを出すのを忘れてしまって、写真は1枚も撮れずじまい。
それでも、あの素晴らしい景色は私の目と心に焼き付いてる。
これ以上ないってくらい近くに感じた彼と、甘やかな心音の記憶と一緒に。