ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

それから浄智寺、東慶寺、円覚寺……途中、北鎌倉駅近くの可愛いカフェでのランチを挟んで、紫陽花の名所をたっぷり見て回った私たち。
その後は電車で一駅、鎌倉駅へ移動。
小町通のお店を冷かしつつ鶴岡八幡宮を参拝して、最後はなんと人力車に揺られて出発地点の別荘まで戻って来た。

送ってくれたお兄さんにお礼を言い、貴志さんの手を借りて初体験の人力車から降りる。
その頃には随分空が暗くなっていた。時間帯のせいだけじゃなく、そろそろ雨が降り出すのかもしれない。今朝、天気予報でそんな風に言ってたし。

散策の間だけでもお天気がもってくれてよかったな、と今日一日を思い返していたら、自然と口元が綻んでいた。

すごく幸せだったから。

案の定というか、どこに行っても貴志さんは注目の的で、逆ナンされたりもしてハラハラしたけど。
ほとんどずっと彼は私の手を放さず、一緒に楽しんでくれた。
小町通では、ジャムとかクッキーとか、いろいろお土産まで買ってくれて。

なんだかまるで、本物の恋人同士がするみたいな最高のデートだった。
彼にとってはただの暇つぶしだったとしても、ね。

これでもう、いつでもあのマンションを出ていける。
こんなに素敵な思い出ができたんだもの。

心地いい疲労感に浸りながら胸の内で独り言ち、顔を上げたところで、その駐車場に新しい車が停車していることに気づく。黒いワゴン車だ。

誰のだろう、と首をひねっていると、「織江、こっち」と貴志さんが指先で私を招いている。その先にあるのは彼の車、ではなく、彼の別荘だった。

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