ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「わ……えぇっ……!」
昔懐かしい木製の引き戸をカラカラ開けて広い土間に入ると、内部は黒い梁が幾重にも張り渡された古民家風の重厚な造りになっていた。
昔の趣を残しつつ、かなり大掛かりなリノベーションをしたんだろう。
古さを感じさせない和モダンな内装は、まるで高級料亭か旅館のようだ。
「海外からお忍びで来るVIPとか泊めたりしてるから、割とキレイにしてるだろ」
私にスリッパを出してくれながら、サラリと言ってのける貴志さん。
割とってレベルじゃないんですが、と後ろからこそっとツッコんでしまう。
一体ここに何があるの?
不思議に思いつつ用意してもらったスリッパに足を入れ、「お邪魔します」と彼の後ろから廊下を進んでいく。
すると……何やら香ばしい匂いが漂ってきた。
刺激されるようにぐぅっと小さくお腹が鳴く。
この美味しそうな匂いは……もしかして……
期待と予想は的中した。
廊下の角を曲がるや否や視界が開け、庭に面した広いリビングダイニングが見えたのだ。
元の室内がどんな感じだったのかはわからないが、複数の部屋の壁を取り払って、広い一間にしたんだろう。
一目でプロ仕様だと見て取れる巨大なアイランドキッチンと10人以上が座れそうなダイニングテーブル、それからナチュラルテイストなソファセットと巨大液晶テレビのリビング、という贅沢な空間を、黒光りした柱が緩やかに仕切っている。
キッチンの中には……シェフコート姿のまだ若い男性が一人、忙しく立ち働いていて、香ばしい匂いはそこからのもののようだ。目が合うと「お帰りなさいませ」と笑顔で頭を下げてくれた。
急いで私もぺこりと頭を下げてから、貴志さんへと視線を移した。
「こちらは、あの……?」