ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「20分ほどでしょうか。どうぞくつろぎながらお待ちください。お茶のご用意はリビングの方に」
「あぁ、わかった」
頷いた貴志さんはそのまま私の腰に手を回し、促すようにして部屋を横切る。
リビングの方へ行くのかと思いきや、向かったのはお庭に面した縁側。進んでいくにつれ、広大なお庭の全貌が次第に見えてきて――……
「っ……!!」
彼が縁側へと続くガラスの引き戸を開けてくれた時には、もうほとんど呼吸が止まりそうになっていた。
だって……
薄闇の中ライトアップされたそこは、今日見たどの名所に勝るとも劣らない、色とりどりの紫陽花で埋め尽くされていたから。
青や水色、紫、ピンク、白……色の濃淡、種類も多彩で、これほどたくさんの紫陽花を一度に目にしたのは、生まれて初めて。
表からじゃ、まさかお庭がこんな風になってるなんて誰も思わないだろう。
昔のうちの庭は他にも松とかツツジとか、他の植物の中に紫陽花が点在してるという感じだったけど、ここは紫陽花オンリー。壮観さが違う。
一歩二歩、蜜に誘われる蝶みたく進んで、息を飲んで魅入っていると、「気に入ったか?」と楽し気な声。
「祖父さんが道楽で造ったんだ。この季節しか楽しめなくて家族には不評なんだけどさ、織江にここ、見せたかったんだ。紫陽花が好きなら、絶対気に入ると思ったから」
「え……どうして紫陽花が好きだって……」
私、そんなこと教えてない。
驚きつつ振り仰ぐと、どこか照れたようにその視線が逸れていく。
「いつだったか、食事中に話してくれただろ。うちのマンションの近所で珍しい紫陽花をたくさん見つけたって。あんなに熱く何かについて語る織江は初めてだったから、きっと好きなんだろうなって思って」
「そ、そうでしたっけ……? だから今日、北鎌倉に?」
「まぁな。水族館とか動物園とか、そこらへんの定番も考えたけど、やっぱり本人が喜びそうなところの方がいいかなと」
あぁもう……ほんとにズルい。
こんなことされたら……
「っ……ありがとう、ございます」
胸がいっぱいになって声を詰まらせる私を呆れたように見た貴志さんは、「大げさだな、こんなことくらいで」と私の頭をくしゃっとかき混ぜる。
そして、ふわりと眦を緩めた。
「ほら、ここならいくらでもゆっくり写真撮れるぞ。昼間はどこも人が多すぎてなかなか撮れなかったし、その分ここで撮ればいいだろ?」
湿っぽい雰囲気を一掃するような明るい口調。
彼の心遣いが嬉しくて、私も「はい、撮りますっ」って笑顔になっていた。