ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
エスカレーター式の私立で幼稚園から大学まで一緒だった彼女は、今の職場で唯一、私の実家が一星百貨の創業家であることを知っている。
特殊な家族構成のせいで家の中に居場所がなく、不自由な思いをしてきたことも。転職の原因になった、2年半前のトラブルのことも。
だからだろう。
“いずれ来るお見合いの前に冒険がしたい、でもやり方がわからない”、と私が相談したら、二つ返事で協力を申し出てくれた。
本当に感謝してもしきれない。
おば様はもちろんのこと、ノリちゃんにもちゃんとお礼をしなければ。
「それよりどうだったのよ、誰か素敵な人と出会いはあった? ナンパされた?」
目を輝かせて聞いてくれるノリちゃんに、良心がズキズキ痛む。
でも、本当のことを言うわけにはいかない。
最初から副社長目当てでした、なんて。
心の中で謝ってから、「そんなにうまくいくはずないじゃない」と苦笑いで肩をすくめた。
「美味しいお酒は飲めたけどね」
「なんだそうなの? ワンナイトからの溺愛とかシークレットベビーとか! 期待してたのにー」
「ノリちゃん、小説の読みすぎ」
一緒に声を上げて笑いながら、そんな奇跡が起きるわけないじゃないかって、胸の内で自虐的につぶやいた。
そう、そんな奇跡は、フィクションの中だけの話――
ざわっ……
急に後ろの方でどよめきが沸き、エントランスゲートの列に並んでいた私たちは同時に振り返った。