ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
副社長室まで一緒に移動し、織江を中へ入れようとして――ドアの前で足が止まった。
ユキは自分のデスクに戻ってしまったし、ここで彼女を入れてしまえば、2人きり。いや、それはマズい。
とっさに声をかけてしまったことを後悔しながら、オレは彼女を振り返った。
媚びてくる他の女たちとは全く違う。
何の色にも染まっていない透明感のある眼差しは美しく、オレの鼓動を妖しく揺さぶる。その緩く結ばれた唇に舌を差し込み思いきり味わいたい衝動と、必死で戦った。
「っ、……今からメールで送るから。自分の席で待っててもらっていいか?」
こんな邪な胸の内なんか彼女は全く想像もできないだろう――と自己嫌悪に陥りながらオレが口にするなり、澄んだ双眸に影が差した。
「……はい」
彼女は何も言わない。
同じプロジェクトに関わってるんだ、家に帰れないほど忙しいというのが嘘だってことはおそらくわかっているはずなのに。あるいは、まさかオレの事なんか何の関心もないのか……。
「わかりました、お待ちしてますね」
不満は一言も漏らさず気丈に微笑む彼女が、ひどく遠く感じて焦った。
失いたくない――感情ばかりが先走り、どうしたらいいのかわからない。
オレは遠ざかる後姿から無理やり視線を剥がし、副社長室へ飛び込んだ。
倒れ込むようにソファへ座り、天井を仰ぐ。
「くそっ……」
不甲斐ない自分にうんざりする。
恋愛って、こんなにもどかしくて苦しいものだったか?
今まで付き合ってきた相手を思い浮かべつつ自問自答してから、いや、と力なく首を振る。
そういえば自分から告白したことなんて一度もない。いつも相手から好きだと言われて、嫌いじゃなければ付き合って……あんなの恋愛じゃない。
「つまり、織江が初恋、ってことか。嘘だろ……」
前髪をくしゃりと握り締めて呻いた。