ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
お姫様抱っこで部屋まで連れて行ってくれるつもりだ、と思いつき、慌てて目を開けようとして。
しかしそこで、ふわりと漂う嗅ぎ慣れない香りに気づいてしまった。
バニラのような、甘い甘い、香り。
いつも彼が使っている爽やかな香水がかき消されてしまうほど、濃い香り。
女性用のものだと気づいて、開けようとしていた瞼を再びきつく閉じた。
あぁやっぱり、と絶望が胸を覆う。
彼は新しい恋人を見つけたのだ。
本気かどうかはわからない。けれど私が用無しであることは、明らかだった。
泣かないように、声をあげないように、寝たふりをするのが精いっぱいだった。
結局お帰りなさいも、おやすみなさいも、言えないまま部屋に運ばれて。
そっとベッドの上へ降ろされた。
わかってたことなのに……
いざ現実を突きつけられれば、どうしたって動揺する。
お願い、早く一人にして……
そんな私の思惑とは裏腹に、上から布団をかけてくれた後も、乱れた前髪を整えてくれた後も、優しい手はなかなか私から離れて行かない。そのまま頭をゆっくり撫でてくれて――
柔らかく、温かな感触が、そっと額に触れた。
彼の唇だと気づいた時にはもうそれは離れていて。
パタン、とドアが閉まる小さな音が聞こえた。
足音が遠ざかっていく。
目の奥が急速に熱くなって、薄く開けた視界が朧になり――もう、我慢できなかった。
「っふ、……っ……ぇ……」
枕に顔を押し付けて、溢れる涙を堪え、嗚咽を殺す。
どうして。
どうしてこんなことするの?
他の女性に触れた手で、
他の女性にキスした唇で、どうして私にっ……
諦めようとしてるのに。
諦めなきゃいけないのに。
あなたはいつも、私の決意を揺さぶることばかり――