ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

そして――久しぶりに雲間から青空がのぞいた、翌朝。
アラーム設定を忘れてしまったせいで私は盛大に寝坊した。
なかなか眠れなかったせいもある。

起きるとすでに10時近くなっていてギョッとしたけど、今日が土曜日であることを思い出して胸を撫でおろした。

こわごわ部屋のドアを開け廊下に出てみると、室内に人の気配はない。
貴志さんはまだ寝てるんだろうか、それとももう出かけた?

彼の部屋をノックする勇気はなくて、とりあえずブランチにでもするかとキッチンへ向かう。すると。

「……メモ?」

カウンターの目立つ場所に置かれた紙に目が留まった。
綺麗に整った、少し右上がりの字――貴志さんのだと気づいて急いで手に取った。

【おはよう。しばらく帰れなくて悪かった。出張前の打ち合わせがあるから、もう出かける。朝食はいらない】

そっか、土曜日なのに仕事なのか。
また声を聞けなかったな、と落ち込んだのも束の間、続きを読んでドキリとした。

【実は織江に頼みたいことがある。今日の午後4時、銀座に来てくれないか。予定があるなら諦めるが、もし時間があるなら付き合ってほしい。場所については、追って知らせる】

4時に銀座?
頼みたいことって……?

寝起きの頭をひねって考えてみるが、一向に思い当たらない。
やがていくら考えても無駄だと諦め、ブランチ作りに取り掛かることに。

とにかく、行ってみればわかるはず。
そして彼とゆっくり話せる時間があるなら、今度こそ同居解消について話さなきゃ。

もう新しい恋人がいるんだから、今度は彼も止めないだろう。

甘いバニラの香りを思い出して落ち込みそうになる自分を叱咤して、私は黙々と手を動かした。

< 194 / 345 >

この作品をシェア

pagetop