ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

久しぶりに好天の週末ということもあってか、たくさんの人が行きかう銀座。
高温と多湿のダブルパンチで滲む汗をハンドタオルで押さえ押さえ、私は賑わいを縫うようにして足を進めていた。

「……ここ、よね?」

そうしてなんとか時間ギリギリにたどり着いたのは、目抜き通りから数本中へ入った裏道の一角。
裏、とはいえ、ザ・銀座、な老舗らしい店舗や高級セレクトショップが立ち並んでいて、ちょっと気後れしてしまうほど洗練された空気が漂うエリアだ。

お目当てのガラス張りの真新しいビルには、貴志さんからのラインにあった通り、精緻な筆記体で「Shoya Kisaragi」と書かれたプレートがはめ込まれている。

「うん、ここで間違いな――あれ……?」

と、そこでようやく、私はその名前が有名ファッションデザイナーの如月翔也であることに気づいた。もしかしてここって、彼のブランドショップ?

じゃあもしかしたら、クライアントのアテンドを頼まれるのかもしれないな。彼の服は海外でも人気だから。

え、つまり仕事絡みってこと?
なんだ、教えてくれたらスーツ着てきたのに。

ごく普通の休日ファッション――黒のノースリーブトップスとベージュのティアードスカート――を若干後悔しつつ、私はそのガラス戸を押し開けた。

小ぢんまりした間口にも関わらず、内部は吹き抜けになっているせいか圧迫感はない。白を基調とした瀟洒な空間の中央には螺旋階段があり、2階へ続いているようだ。

興味津々で足を踏み入れると、ディスプレイされた服を眺める間もなく「いらっしゃいませ」と朗らかな声が言った。カウンターの中から同い年くらいの女性スタッフが微笑んでいる。

「山内織江様ですね?」

「は、はい」
いきなりフルネームで呼ばれて面食らいつつもとりあえず頷けば、「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」と丁寧に誘導される。
向かった先はあの中央の螺旋階段。

「個室がございますので、ゆっくり選んでいただけますよ」

なるほど、よほど大事なクライアントが来てるのね、という私の呑気な予想は、その数分後見事に覆されることとなる。

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