ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

「って、痴女か。何を考えてるの」

こっそり赤面して突っ込む間にも、騒々しい声は止むことがない。

「村瀬さん、中条さんは左の薬指に指輪をしていたそうですが!」
「あなたのプレゼントですか!?」

「…………」

次々と投げかけられる追及を鬱陶しそうに完全無視して、その人がゲートの方へ、つまりこちらへ、堂々とした歩みでやってくる。


「わたし専務付でほんとラッキーだったわ。高橋さんも毎回気の毒に」

しみじみと言うノリちゃんに「確かにね」と同意して、副社長に従うベージュのスーツ姿の女性へ目をやった。
高橋雪代(たかはしゆきよ)さんと言い、副社長付の専任秘書を務めている人だ。

秘書室長も兼任している彼女は、いつもは気さくで親しみやすい雰囲気の人なのだが、マスコミがビルの中まで雪崩れ込んできた今朝の状況はさすがに腹に据えかねているらしく。
遠巻きにする私たちの手前でワンレンボブの黒髪をサラッと揺らして立ち止まると、記者たちを睨みつけた。

「誤解なさっているようですが、村瀬は芸能人ではありません。これ以上の付きまといは、不法侵入ならびに業務妨害と見なしてしかるべき処置を取ります。もちろん、写真の使用も一切認めません。お帰りください」

小柄ながら、一歩も引かずに鋭い声音で通告する様は迫力があり、気圧されたように集団は後ずさり。
カメラマンたちは構えていたカメラを一斉にしおしおと下ろした。

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