ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「それはそうと、今夜あなたに会えるとは幸運でした。実は僕、あなたに謝らなければならないんですよ。昨夜のことで」
「ゆ、昨夜?」
初対面のくせに何を言い出すのかと眉をひそめる私へ、内緒話をするみたいに相手は顔を寄せてきた。
「昨夜、ホテルまで中条瑠衣を迎えに行ってくれと貴志に頼みこんだのは僕なんです」
「えっ?」
「急用があってどうしても行けなくて。昨夜だけじゃなく、これまでも何度か、彼は僕の隠れ蓑になってくれてましてね。あなたという存在は知っていたが、つい今回も頼ってしまった。申し訳ない」
「隠れ蓑……」
そういえばそんなこと彼自身も言ってたっけ。
じゃあ、彼女たちと付き合ってる男、というのは本当に実在して……あれは嘘じゃなかったんだ。
私の心の声が聞こえたようにその人は頷き、眼鏡の奥の瞳を悪戯っぽく煌かせた。
「少なくとも、マスコミで報道された女性たちはすべて彼とは無関係だと、僕が責任を持って証明しますよ。どうか彼と、その件で喧嘩しないでくださいね? 殺されたくないので」
硬質な第一印象を裏切るその表情は貴志さんにも通じるところがあって。
悪い人じゃなさそうだと、私も頬を緩めた。
でも、どうして隠れ蓑役を頼んでまで、コソコソしなきゃいけないんだろう?
この人、もしかして既婚者なの?
なんとなく気になって、霧島さんの左手を覗き込もうとした。
「そこで何してる?」