ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「では、私はこちらで失礼させていただきます。貴志、くれぐれも失礼のないようにな」
今回の出張の目的――本社への次期社長の紹介――を果たした親父は、次の予定が迫っていたため、先に席を立った。
一人残ったオレは、総帥邸内部を案内してくれるというライアンの後から応接室を出る。
ここに来るのは初めてじゃないが、総帥就任後、彼が随分手を加えたようだ。
コロニアル調の富豪邸宅、という見た目は変わっていないものの、空調や防犯設備など随所に最新システムが導入されている。特に地下に建設された巨大なコンピュータールームには、度肝を抜かれた。
こんな中枢までオレに見せて大丈夫なのかと隣をチラ見るが、お気に入りのおもちゃを見てもらえて嬉しい、と言わんばかりの笑顔を向けられてしまい、何も言えなかった。
これで、頑固な古株の役員からも“歴代最高”と絶賛されるほど仕事はデキるんだからな。本当に、人間ってわからない。
「よかったら今夜、食事を一緒にどうだい? 飛鳥も君に会いたがっていたし」
中庭――学校のグラウンド程度もある――を取り囲む長大な回廊に戻って来たところで誘われたオレは、きっぱりと首を振った。
「帰国便の時間に間に合わなくなる。悪いけど」
いつの間にか昔のくだけた口調に戻っていたが、そんなことを気にするようなヤツじゃないし、まぁいいだろう。
「ふぅん。急いで帰りたい理由があるんだね。ズバリ、女性だ」
はっきり言い当てられ、とっさに二の句を継げず黙り込むオレを見て、「ぶぶっ」と目の前の男が吹き出した。
「ぁははははっ……図星か。さっき応接室で話をしてる時も思ったんだよ。“恋する男”の顔だなって」
腰を折って爆笑されてしまい、「どんな顔だよ」と眉をひそめる。
顔なんかでバレるわけないだろう? ないよな?
「元相棒としては、嬉しいかぎりだよ。君にもついに、運命の人が現れたわけだ」
う、と束の間言い淀み――しかし聖人のような無垢な笑顔を見せられては、反論する気も失せてしまう。