ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
……おい、侑吾、何やってるんだよお前……総帥の目の前だぞ……
回廊の途中に作られた大理石の階段を降り、ライアンが中庭へ、3人へと近づいて行くのが見えた。
まず彼に気づいた男の子が、「パパっ!」と叫ぶ。
続いて侑吾と女性――ライアンの妻、アスカ・マスギ・リー――が振り向いた。
駆け寄ってきた息子を愛おしそうに片腕に抱きあげてから、もう一方の手で自分のものだと主張するように妻の腰を引き寄せる。
何かを話しているらしいが、ここからは聞き取れなかった。
やがて、侑吾が慇懃に腰を折り、その場を離れてこちらへやってきた。
「伊藤くーん、伊藤くーん!! 久しぶりーっ!」
ちょうどそのタイミングで総帥夫人らしからぬ快闊さで真杉飛鳥に呼ばれてしまい、固まった。ぶんぶんと手まで振ってくる。
いや、ライアンの前でとか、止めてくれ。本気で。
ヤツの妻への執着心を知っているオレとしては、巻き込んでくれるな、と引きつった顔で頭を下げるしかない。
「なぜ、僕が本名呼びで敬語、君はニックネーム呼びでタメ口なんです?」
侑吾が恨めし気にオレを睨みつつ、扇状に広がった階段を上って来た。
「“伊藤”はニックネームじゃなくて、SD絡みで使ってた仮名だ。お前だって知ってるくせに」
当然知ってる。侑吾はキングに次ぐ、SDのナンバー2だから。
「はぁ、わかってますよ。わかってますけど……せめて僕も『霧島君』って呼んでくれたら嬉しいのに……」
冗談めかして言いながらも、中庭の彼女を食い入るように見つめる侑吾の視線は切なく、真剣だ。