ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
フロアへ戻ると、秘書室のメンバーがざわつき、一斉にこちらを見た。
「皆さん、突然ですが、一身上の都合によりこちらの業務を離れることとなりました。代わりに、これからは山内キララが参ります。私の妹です。引継ぎにつきましては、派遣会社の方と相談してご迷惑をかけない形で行います。未熟な子ですが、やる気だけはあると思いますので、どうかご協力いただきますようお願いします。本当に申し訳ありません」
みんなに向かって頭を下げる私の肩を、駆け寄ってきたノリちゃんが揺さぶった。
「ねぇ何があったの!? なんで織江が辞めなきゃいけないのよ。どうせあの妹がまた変なこと言いだしたんでしょ?」
「違うの、ノリちゃん。キララは関係ないよ」
慌てて手を振って、大丈夫だとアピールした。
幼馴染でもあるノリちゃんは昔からキララを知ってて、毛嫌いしてる。
私のために怒ってくれる気持ちは嬉しいけど、ここは下手に突っつかれない方がいい。
「語学力、まだまだ力不足を実感する場面も多かったから。もっとちゃんと勉強したいなって思って。留学とか、しちゃうかもしれないな」
無理矢理笑って見せると、ノリちゃんがくしゃっと苦しそうに顔をゆがめた。
その後ろからカツカツとヒールの音が響く。
近付いてきたのは高橋さんだ。
「本人が決めたことなら、こちらとしては何も言えないけど。ちょっといきなりすぎない?」
「はい、それは……本当に申し訳ありません」
「貴志があんなにブチキレてるのを見るのは初めてよ。何があったのか知らないけど、誤解があるんじゃないの? 何か、私にできることはない?」
私を責めることなく、あくまで優しく聞いてくれる上司。
そしてその後ろには、心配そうにこっちを見ている秘書室メンバーの顔も見える。あぁほんとに、なんて素敵な職場だったんだろう。
再び視界が滲みそうになって、困ってしまった。
「……いえ、お気持ちだけで十分です。どうか、妹の事、よろしくお願いします」
胸がいっぱいになりながら、なんとかそれだけ言い、私はもう一度深く頭を下げた。