ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

佐々木君がキララと婚約して、一星に居づらくなって退職して。

もちろん、働かなきゃ生きていけない。
1人暮らしも続けたかったし、取り急ぎ派遣会社に登録してみたら、意外なことにすぐ大手外資系商社(リーズニッポン)に採用が決まって……

実はお父さんのごり押しがあったせいだと担当者から聞かされて、がっかりすると同時に不思議に思った。あの人が私のために何かしてくれるなんて、めったにないことだったから。

婚約者に捨てられた娘を哀れに思って手を差し伸べてくれたんだろうか、と一瞬ポジティブに解釈してしまったが、そうじゃなかった。
初出勤前に実家に呼び出された私は、父から命じられたのだ。

――独身でちょうどいい相手がいるから、近づいて落とせ。

貴志さんのことだった。

本当はちゃんとお見合いを申し入れたかったものの、本人に任せてあるのでと村瀬社長から断られたらしい。それで、『近づいて落とせ』となったようだ。

――ほんのひと月前、棚からボタ餅のように副社長になったばかりの男だからな、まだその実力は未知数といったところだが。あれほどの大企業だ、たとえボンクラだったとしても縁をつないでおくのは悪くない。

ボンクラかもしれない相手を娘に勧める父親ってどうなんだろう、という疑問はこの際置いておく。

お父さんはやっぱり、私をビジネスに利用すべき駒としか考えてなかったのだ。

そんな人の言葉に従うつもりなんてなかった。
一星での騒動が私の心に深く傷となって残っていて、恋愛だの結婚だの、もうあんな思いはたくさんだと思っていたこともある。
目立たず波立てず、ただただ平穏な毎日を送りたかった。

でも……貴志さんは、想像以上に素敵な人だった。
彼と結婚できる相手が羨ましくて仕方なかった。

< 241 / 345 >

この作品をシェア

pagetop