ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「あの日会議室で何があったのか、大体は貴志……副社長から聞いたわ。あなたが『お金目当てで自分に近づいた』って。でもね、私にはどうしても、あなたがそんなことするとは思えないの。事情があるなら、話してくれない?」
励ますような温かな眼差し――直視できずに、たまらず目を逸らしてしまった。
こんなにも優しい人を失望させてしまう自分が、ものすごく恥ずかしい。
でも……ここで本当の気持ちをこの人に、ひいては貴志さんに、知られてしまうわけにはいかない。
だから、どんなに辛くても言わなければ。
「……心配していただいて、ありがとうございます。でも、事実なので」
「え?」
「私、副社長をホテルで誘ったこともあるんですよ。逆ナン、ってやつです」
「それは……貴志のことが好きだからじゃないの?」
やっぱり私の気持ちはバレバレだったんだな、と苦く思いつつ、不自然にならないように少し首を傾げた。
「恋愛って、私よくわからないんですけど。ただ、実家が嫌で早く結婚がしたくて、副社長のことはずっと狙ってたんです。だって、やっぱりお金に苦労する生活はしたくなかったから」
「え」と絶句する彼女を真正面から見据えて、私は続ける。
「リーズニッポンで働いてたのも、正直、大企業ならいい相手見つかるかなって思ったからだし。でも、そんな下心を妹に暴露されて、副社長にはケーベツされちゃって。さすがにそのまま傍にいられるほど、私図太くないので。もういいかなと」
「……本気で言ってるのね?」
頭の中は真っ白。ただ機械的に頷いた。
「そう……残念だわ」
3週間前の貴志さんとよく似た、感情の消えた声音が言う。
「貴志とあなたが同棲を始めた時、本当に嬉しかったのよ? 口では何を言ってたって、彼があなたに惹かれてることは伝わってきたから。あなたとなら、愛し愛されて、素敵なカップルになるだろうなって……でも、買いかぶりすぎてたみたいね」
伝票を手に取ったその人は、淡々と席を立った。
そしてしばらくの間、何か私に投げつける言葉でも探しているのかその場に佇んでいたけれど、やがてカツン、と靴音を響かせて身を翻した。