ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「いらっしゃいませー」
コツン、と靴が石畳を踏む。
暗めの照明が照らし出すクラシカルな雰囲気の店内を、ぐるりと見回した。
あまり期待はしていなかったが、まるでヨーロッパの古いワイナリーのようで、なかなか居心地よさそうだ。
オレは空いた席を探して足を進めた。
割と人気の店らしく、席は半分以上が埋まっている。
さて、どこがいいだろうか……と店内の中ほどまで来たところで――一組のカップルに視線が吸い寄せられた。
飴色に鈍く光るカウンターの隅、横並びに座る2人。
女性の方、パフスリーブの白ブラウスと黒のフレアスカートという出で立ちの華奢なシルエットが織江に似てるなと思って……愕然とした。
本人だった。
どういうことだ。
パン教室じゃなかったのか。
頭が混乱する。
よろめきながらも2人からほど近い空いた席へ、顔を隠すようにして腰を下ろした。
アロハシャツを着た男の方は、50代くらいだろうか。
メタボ腹というか、ジャンクフードでできたようなたるんだ体型は、とても20代の女性が好みそうな容姿とは思えないが……
動揺のあまりオーダーを聞きに来たスタッフも追い返してしまい、チラチラ視線を送りつつオレは耳をそばだてる。
が、2人はこちらに背を向けているし、周囲の雑音もあるしで、声はほとんど聞き取れない。もちろん話の内容なんてわかるわけもない。