ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

あっという間に8月は終わり、9月に突入した。

連日の猛暑はまだ続いているものの、朝晩には鈴虫の鳴き声が聞こえることもあり、確実に季節の移ろいを感じる日々。そんな中、日曜日がやってきた。


「こんなにお綺麗なお嬢さんとご縁のある殿方が羨ましいですわ」

名店と誉れ高いその料亭で、出迎えたお店の人が笑顔を向けたのはシンプルなベージュのワンピース姿の私、ではなく、豪華な京友禅の振袖を纏ったキララだ。桜や牡丹、梅や菊……サーモンピンクの地にこれでもかと花を散りばめたゴージャスな振袖姿は、まさに主役の一言。
しかも付き添うお継母さんもペアルックのような薄桃色の訪問着とくれば、お店の人が間違えるのも無理はない。

『あたしも行く』と宣言した次の日には、会社を病欠。うちのデパートに入っている呉服屋を家に呼びつけて夏用の着物をお継母さんと見繕っていたから、まぁこうなることは予想してた。
それくらい、気合が入ってるってことだろう。
事実、お金をかけただけあって、今日のキララは輝くばかりに美しい。

私は特に訂正もせず、ドヤ顔の継母とキララ、汗まみれな父の後ろから静かについていく。

通されたのは、離れの和室だった。
どうやら私たちの方が先に着いたらしい。

末席に正座すると、もうすぐ貴志さんに会えるんだという現実がいよいよ迫ってきて、否応なく緊張が高まる。

とにかく、お見合いをした、っていう事実すら残らないくらい速攻で破談にしてもらおう。それが、彼のためだから。

問題は、果たして私が、彼を前に冷静に振舞えるだろうかってことで……。鹿威しの雅な音も、お継母さんがキララを褒めまくる声も、なかなか耳に入ってこない。

ドクンドクン……


膝の上で組んだ両手が、汗で滑った。


お母さん……どうか力を貸して……!


心の中で叫んだところで、廊下に面した障子の向こうから声が聞こえた。

「お連れ様がお着きになりました」


ドクンッと心臓が大きく脈打った。


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