ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない


「それで? やっぱり彼女で間違いないの?」

副社長室に入りしっかりとドアを閉めてから、ユキが振り返った。

窓際に置かれた黒檀のデスクに浅く腰掛けたオレは、「あぁ」と頷く。

「でも、相当化けて(・・・)たんでしょ? 絶対に本人かどうかなんて……」
「間違いない、彼女だ」

自分でもどうしてそこまで断言できるのかわからないが、間違っていないという妙な自信だけはあった。

そんなオレを見て、ユキもそれ以上疑問を差しはさむことはなかった。

「問題は、なぜ貴志だったのか、よね」

「あぁ、そうだな」

それは週末中ずっと考えていた。
彼女は明らかに、“オレ”だとわかって誘ってきていた。
勤め先の副社長である、オレを。

「貴志のことがずっと好きだった、とか?」
「オレと付き合いたいなら、名乗るべきじゃないか?」

じゃあやっぱり、単なる遊び?
乱れた噂のあるオレとなら、後腐れなく楽しめると思ったのか。
副社長と寝た、というステータスが欲しかったのか。

いや……彼女はバージンだった。

あんな娼婦みたいな真似をするには、相当な覚悟が必要だったはず。
それなりの事情がある、と考えた方が自然だ。
それは一体、何だろう?

腕を組んで考え込んでいると、「あっ」と声がした。

「ちゃんとコンドームは使ったんでしょうね?」

「っ、はぁ!?」
直接的なワードにギョッとしたが、慌てて首を縦にする。
もちろん、避妊はした。
脳みそがトケそうになりながらだったが、なんとか。

「つまり、妊娠したと騒ぐつもりしれないって言うのか?」

「騒ぐかどうかはわからないけど、お金か何か、要求される可能性はゼロじゃない、とは思うわ」

「ハニートラップってことか? ユキだって彼女の仕事ぶりを知ってるだろう。そんなことをするような人間に見えるか?」

「そうよねぇ。そう信じたいけど……でも、人は見かけによらないものだしね」

うんうん、と顎に手を当てて頷く彼女のオンオフのキャラ変を日々目の当たりにしているオレは、確かにな、とこっそり苦笑したのだった。

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