ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

唐突に背後から響いた声に、私たちはビクッと飛び上がった。
アワアワと振り向けば、作務衣姿の壮年男性が立っている。

穏やかな笑顔を浮かべるその人が、このお寺の住職様であると思い出した私は、全身を赤くする思いで頭を下げた。

「い、いつもお世話になっておりますっ」

「山内さんもお元気そうで何よりですな」

ニコニコと顔を綻ばせた住職様が貴志さんの方を見たため、慌てて2人をお互いに紹介した。

「そうですか、婚約なさったんですね。ニュースで見て、心配していたので。それはよかった、おめでとうございます」

「はい、ありがとうございます」

「お父さんのことは、びっくりしたでしょう。残念でしたね。いろいろと騒がれて、大変だったのではありませんか?」

本気で心配されてしまい、「いえ、私なんて」と首を振る。

「従業員のみなさんの動揺を考えたら、大変なんてとても言えません。どうしてもっと早く止められなかったのかと……」

唇を噛んで目を伏せる私の肩を、大きな手が包み込んだ。
そのまま貴志さんに抱き寄せられて、私は苦しい息を吐きだした。

「父には、きちんと反省して欲しいと思ってます。それだけのことをしたんですから。プライベートではもう二度と会うことはないと思いますし、縁も切るつもりですが、ちゃんと最後まで見届けるつもりです」

それが娘としての義務だから、ときっぱりした口調で続けると、貴志さんが宥めるように頭を撫でてくれる。

「何も、縁を切るなんて、今そこまで決めなくてもいいんじゃないか? オレに遠慮することはないぞ? あの人が織江の父親だってことは事実だし。心を入れ替えて再挑戦するというなら、オレも手を貸すつもりだ」

婚約者の気遣う声に、私は力なくかぶりを振る。

確かに、貴志さんに迷惑をかけたくない、という思いはある。
でもそれと同じくらい、結局のところ、私はあの人を未だに許せないのだ。
お母さんを裏切り、追い詰め、家をめちゃくちゃにしたあの人を……


幼い日を思い出してうつむく私の耳に、「山内さん」と穏やかな声が届いた。

「少しだけ、お時間をいただけますかな。あなたにお譲りしたいものがあるんですよ」

譲りたいもの?
私は貴志さんと視線を合わせ、首を傾げた。

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