ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

私たちが案内されたのは、本堂の隣にある寺務所(じむしょ)だった。

中に入るのかと思いきや、住職様は玄関先で立ち止まる。
土いじりが趣味なのか、そこには松の盆栽からアロエまで、様々な種類の鉢植えがずらり。

そして、今私たちが足を止めた先にあったのは――

ひょろりと伸びた50センチほどの茎に、ところどころ黄色く変色した葉っぱが付いただけの鉢植え。
花の時期は終わっているらしく、剪定の跡が見て取れる。

これが私に“譲りたいもの”……?

寄せた眉は、ほどなく解けた。
そこに植えられているのが何か、わかったからだ。

「これ、紫陽花、ですよね?」

ニコリとして頷いた住職様は、「今年の春先でしたか」と口を開く。

「山内社長が持っていらしたんですよ。『娘の新居を建てることになって庭を更地にしたが、これだけはどうしても処分できなかった。もらってくれないか』とね」

「お父さん、が……?」

これだけは(・・・・・)って、じゃあ、この紫陽花はまさか……


ううん、違う。
庭には、似たような紫陽花がたくさんあったもの。

春先だとしたら、まだ蕾もついているかいないか、という頃。
あの人が、その状態でレディミツコの株を見分けられるはずがない。

あの人が、お母さんの紫陽花だけ特別に扱ってくれるなんて。
そんな、そんなこと……

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