ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

そうだ。
そうだった。

――ほら織江、見て。これがレディミツコ。お母さんの紫陽花よ。

記憶の中で、お母さんはいつも笑ってる。

特に、紫陽花の世話をしてる時。子ども心にも見惚れてしまうくらいの、華やいだ微笑みを覚えてる。


――ダイヤの指輪よりなにより、嬉しかったわぁ。


……あぁ、そうか。

花言葉なんか関係ない。
たとえそれがなんであっても、大好きな人から贈られたものなら。

嬉しくなかった、はずがない。


「っ……」


涙のヴェールで、視界が瞬く間に覆われた。

……あぁもう、今日は泣いてばかりだ。

「お、織江っ?」

狼狽える貴志さんの胸に頬を押し付けて、嗚咽をかみ殺す。


眼裏に蘇るのは、幼い日の思い出。
3人で行った、一星百貨の屋上遊園地。


――ほらほら、織江もお父さんも早く!

メリーゴーランドを目指して駆けて行ったお母さん。

お父さんに「織江より子どもみたいだぞ」って揶揄われて、「あらやだ、ほんとね」って弾けるように笑ったお母さん。

すごくすごく、楽しそうだった。
すごくすごく、綺麗だった。


好きだったんだね、お父さんのこと。
本当に、大好きだったんだね。


悩んだり、後悔したこともあったと思う。
でもそれすら、笑顔で受け止めることができるほど。


……あぁお母さん、
あなたはきっと、幸せだったんだね。


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