ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

帰り際にもう一度、今度は一人で、廊下から庭を眺めた。

月明りだけが煌々と降り注ぐ殺風景なそこを見つめていると、風に乗ってどこかから懐かしい声が聞こえてくる気がした。

――ほら織江、見て。これがレディミツコ。お母さんの紫陽花よ。

薄ピンク色の、小ぶりな手毬形の花が眼裏に浮かぶ。

この庭に植えられた最初の紫陽花となったそれは、結婚してこの家に来る時、お父さんがプレゼントしてくれたものだったそうだ。
美月子(みつこ)、お前と同じ名前の花を見つけたぞ”と。

――ダイヤの指輪よりなにより、嬉しかったわぁ。

弾んだ声で言って、甲斐甲斐しく世話してたっけ。


お母さんは、寿退社するまでCAだった。まだその職業が、スチュワーデスという名前で呼ばれていた頃のことだ。
フライト中に老舗百貨店の御曹司に見初められて、結婚。まるでシンデレラのようだと、周囲からは持て囃されたらしい。

でも……彼女は果たして幸せだったんだろうか?

――あの飛行機は、これから羽田に向かうところね。
――あの雲は揺れそうねぇ。

縁側に座って、キラキラした目で空を見上げていた姿を覚えてる。

楽しそうなその横顔を見ながら、子ども心に、もっともっと空の上で働きたかったんじゃないかなって感じた。

当時はごく普通だったとはいえ、専業主婦になったことを後悔すらしてたのかもしれない。
だって口癖みたいによく言ってたもの。
“織江は、自分の足で立てる女性にならなくちゃダメよ”って。

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