ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「お疲れ様です、副社長。ご無沙汰しております、霧島専務」
「雪さん、久しぶりですね。よろしかったらこちらへ」
紳士よろしく隣のスツールを勧める侑吾へ、「すぐ失礼しますので」とユキは愛想よく微笑んだ。
彼女が敬語を崩さない時は、仕事の話がある時だ。グラスをカウンターへ置いて体ごとそちらを向くと、案の定「ご歓談中申し訳ないのですが、副社長」と切り出された。
「例の男について、ご報告に参りました」
例の男、と聞いてすぐに理解した。
山内織江の元カレだ。
チラリと侑吾の方を気にするユキへ、構わないと視線で先を促す。
彼女は頷くと、淀みなく話し始めた。
「佐々木彰、27歳。アパレルブランド・アウローラの社長子息でした。といっても次男で、肩書は事業本部長。あまり評判はよくありません。経営方針を巡って周囲とはしばしば衝突しているようですね。次期社長である兄の影響下から抜け出すためにもアジア進出を狙っていて、資金面で援助してくれるところを探しているとか。海外ビジネスに強いと、うちに目をつけたみたいです」
なるほど、アパレルだったか。
確かに着ていた服はオーダーメイドのようだった。
「先方には、昼間の一件について厳重に抗議しておきました。もちろん、山内さんの名前は伏せてあります。常務――佐々木彰の兄ですが――宛てに直接連絡を入れておきましたし、先方もかなり恐縮してましたので、彼女にこれ以上の害を及ぼすことはないと思いますが……」
つと言葉が切れ、探るような視線がこちらを見つめる。
「どういたしましょう。もっと調べてみますか? 彼女との関係について、とか」
「……いや、いい」
プライドは高そうだったが、損得勘定はできそうな男だった。リーズグループを敵に回すことの意味がわからないほど、頭が悪いわけじゃないだろう。
彼女の口ぶりや態度からしても、未練はないようだったしな。
それならもう、深追いなんてしなくていい。
2人がどんなふうに付き合っていたかなんて知りたくもない、まぁ実はそれが本音だ。だからその時はすぐに、「放っておこう」と返しておいた。
しかしオレは後に、ここで追加の調査を指示しておかなかったことを深く後悔することになる――