ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「わざわざ来てもらって悪かったな。明日でもよかったのに」
「いえ、ちょうど帰り道でしたので。……では、私はこれで」
礼儀正しくオレと侑吾へ頭を下げたユキは、そのまま背を向けて帰ろうとする。
しかし、最後の一瞬。
後ろ髪を引かれるようにその眼差しがオレの隣へ流れたことに気づき、あぁそうだった、と思い出した。同じくリーズグループ系列の会社の社長令嬢である彼女が、それこそ子どもの頃から侑吾に抱く想いを。
こんな冷徹眼鏡野郎のどこがいいのかと思うが、まぁ痘痕も靨って言うしな。
今夜の報告だって、電話かメールでもいいのにわざわざ足を運んだのは、こいつとここで会える可能性に賭けたからだろう。
実は同じようなことが、今までにも何回かあった。オレが一人で飲んでいるところに、ユキが仕事の報告にやってくる、というパターンだ。
何を隠そうこのワインバーは侑吾が自身の道楽で作った店。ソムリエの資格も持っており、自らカウンターに立つこともしばしばだったから。
ここなら偶然を装って堂々と会えるというわけだ。
「ユキ」
呼びかけると、待っていたかのようにピタリとハイヒールが立ち止まる。
「高橋、とお呼びください。副社長」
澄まし顔で言いながらも、期待に上気した頬は隠しようがない。
こっそり笑いをかみ殺しながら、隣のスツールを彼女のために引いた。
「残業させたお詫びに一杯奢る。座って」
「いえ、でもせっかくのご歓談中に――」
「侑吾も、構わないだろ?」
「もちろん。雪さんなら大歓迎です」
「でも……」
なおもしぶる彼女を半ば強引に引っ張って座らせようとした時、おあつらえ向きにオレのスマホが震え出した。
「悪いけどユキ、ここに座って侑吾の相手してやってくれ。親父から電話だ」
スーツのポケットからスマホを取り出しながら言い、自分の席を彼女へ譲ると返事も聞かずにその場を離れた。
こんな役回りはガラじゃないが、まぁたまにはいいだろう。