ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

それから数十分後。
行灯が点々と灯る品のある純和風の廊下を、私は歩いていた。

「ん? どうした、ぼんやりしてると転ぶぞ?」

そこここに飾られた渋めの花卉や掛け軸を引きつった顔で眺めていたら声が聞こえ、少し先からこちらを振り返る副社長がいた。

「は、はいっ」
大丈夫だと頷いて見せ、足を速めて後に続く。

そう。彼の運転する高級外車で連れてこられた先は、これまた超高級な料亭だった。入口の御影石に刻まれた「宇津木」という店名を見た途端、回れ右して逃げ出したくなるのを必死で堪えたくらい。

私だって名ばかりとはいえ社長令嬢だ。
宇津木が天ぷらの名店で、ミシュランの星付きだってことくらいは知っている。
キララが誕生日に連れてってくれってお父さんに頼んでたもの。結局、予約が取れなかったとかで行けなくて、ずいぶん不機嫌だったことも覚えてる。

こんな有名店に一介のアシスタントを、しかも極力関わりたくないであろう人間を連れて来るとか……さすが副社長(セレブ)。庶民の想像力の限界を軽く突破してくれる思考回路だ。

感心しながら歩を進めて行くと、先導のスタッフがしずしずと最奥の引き戸を開けるのが見えた。

そこは案に相違して和室ではなく、窓に向かってカウンター席のみが配置された、落ち着いた雰囲気の個室だった。

5、6人は平気で座れそうなカウンターに2人分の席が用意されていて。透明なパーテーション越しに覗き込めば、向こう側は調理スペース。澄んだ黄金色の液体がたぷんと波打っている。なんと目の前で揚げてくれるらしい。

すごい、こんなお店初めて……一体おいくらするんだろう?

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