ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

「もしかして天ぷら、嫌いだったか?」

圧倒されて黙り込む様子を別の意味にとったのか、気遣うような声がする。

「い、いえっ全然。好きです、けど」

はっ、まさかこれって口止め料のつもり? 高橋さんにはあの夜のこと内緒にしておいて、とか? バラすつもりはないって、ちゃんと言ったのに……

いろいろ考えてしまって落ち着かない私の前で、「ならよかった」って表情を崩す副社長。
そして、まるで特別な相手をエスコートするみたいにスマートに椅子を引いてくれて……これを断れる女がいるだろうか?

私は心の中で高橋さんに謝りながら、「ありがとうございます」とぎこちなく腰を下ろした。

座っているのにふわふわ身体は浮いているような、心はバタバタ走り回ってるような、不思議な気持ち。もうあれっきりだと思ってたのに……まさか副社長と、もう一度あの夜みたいな距離で話せるなんて。
しかも、あの夜と違って今回はちゃんと山内織江としてここにいるわけで……

おずおず視線を横へ滑らせると、隣に座ったその人の涼やかな眼差しとバチっとぶつかり、鼓動が大きくジャンプした。

「さてと、何を飲む? 日本酒でもいいし、ワインでも天ぷらに合う奴はたくさんあるぞ。あぁ別に酔わせて襲おうなんて考えてないから、心配するな」

注がれる悪戯っぽい視線に戸惑いながら、「わ、分かってます」と目を泳がせる。

「えぇと、副社長は――」

車の運転がある彼を差し置いて自分だけ飲むわけにはいかない、と続けようとしたのだが、「ストップ」と遮られた。

「その“副社長”っていうの、社外で使うのは禁止な。誰が聞いてるかわからないだろ」

「あ、そうですね。すみません。軽率でした」

そうか、アイドルやモデルたちと噂になる彼のこと、マスコミを警戒するのは当たり前だろう。

「えっと、村瀬、さん、でいいですか?」

ドキドキしつつ呼んでみる――が、なぜか相手はまだ不満顔。
そして、「まさかと思うが」と頬杖をつき、こっちを覗き込んできた。

「君は、自分が働いてる会社の副社長の下の名前を知らないとか覚えてないとか、言う気じゃないよな?」

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