ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

「それは、その……存じております、が」
「じゃあ呼んで」

よ、呼ぶ? 下の名前を!?
一体何を考えてるの?

面白がってることは伝わってくるけど、なぜなのか理由がわからない。
私のことなんか、名前を呼ばせるどころか、金輪際関わりたくないと思ってるはずじゃないの?

「ほら、早く」

逃げ出そうにも逃げ出せない状況に途方に暮れる。
どこか色気を感じさせる双眸に見つめられて、もうそれだけで火傷しそうで……こんなの、心臓がもたない。私は早々に白旗を上げ、口を開いた。

「た、……えぇと、た、たた」
「た?」

貴志さん、貴志さん、何度も妄想の中で呼んだ名前だ。わかってる。
わかってるけど、本人を前に口にするのは相当ハードルが高い。

「たか、し……さん」
「もう1回」

「たかし、さん」
「もう1回」

~~っ……こんな意地悪な人だったなんて!

「貴志さんっこれでいいですか!」

ほぼキレ気味に言うと、ようやく副社……貴志さんが「あぁそれでいい」と頷いた。惚れ惚れするほど形のいい唇を満足そうに持ち上げ、私へ微笑む。

あぁもうほんとに……今にもショートしそうな私の心臓を、この人は知らないだろう。その笑顔一つでどれだけの女が勘違いするか、わかってない。だからこんな、笑顔の大安売りなんかできるんだ。

切なさを抱えながら視線を伏せたところで、カウンターの向こうで誰かが吹き出した。

「楽しそうですねえ坊ちゃん」

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