ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
やがて、食事が始まった。
もちろん最初は、緊張のあまりギクシャクしてしまって会話がなかなかつながらなかったけど……
心配したほど、気詰まりな時間でもなかった。
目の前で揚げてくれるっていうライブ感がよかったんだと思う。
自宅で揚げるのと何が違うのか、パチパチ小さな音を弾けさせて食材が油の中で踊る様子はほんとに芸術の域で美しくて興奮してしまい、沈黙を恐れる暇もなかったから。
一品一品、カラッと揚がったそれを口に運べば――
「わ、さくさくっ! おいしぃっ」
パリパリっと小気味いい音を立てる衣と、上品な薄味の塩、素材本来の旨味のバランスが絶妙で。鱧やイカ、ナスやピーマン、根菜類……少しも油っこさを感じないから、いくらでも箸が進んでしまう。
そして、そんな美味しい食事や少々のアルコールで気分が解れるにつれ、次第に口もスムーズに回るようになり……。
なんと彼は、休憩室で私がコーヒーを譲ってもらった一件を覚えていた。
「2年前、オレたちってほぼ同時期にリーズニッポンに来ただろう? 実は勝手に織江のこと同期認定してた」
「わ、わたしがっ同期、ですか?」
「オレにとっても君にとっても、慣れない新しい環境だったことは間違いない。なのにあの時君は、オレを気遣う余裕すらあった。オレは、まともにコーヒーも淹れられないほど疲れ切っていたというのに。これは負けてられないなって、妙に印象に残ったんだ」
「そんなっ、それは、全然立場が違います! た、貴志さんこそ、私なんかよりずっとプレッシャーかかってるはずなのに諦めずに頑張ってて、すごいなって……」
結局、貴志さんが聞き上手で話し上手、っていうことなんだろう。
あの夜について蒸し返すことは一切しなかったし、宇津木さんに話をふったりもして場を盛り上げてくれて。お互いの留学生活、好きな映画や本まで、話題はいろんなことに及び、意外なほどスムーズに会話が弾んだ。
私なんて、最後の方には自分の立場も忘れて笑い声すら上げていたほどだ。