ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「へぇ、前職が経理だってことは知ってたけど、デパートだったんだ。どこのデパートか聞いてもいいか?」
「ええと、一星百貨っていう……」
「あぁ、老舗だな。シンガポールや香港にも支店があるだろ。出張のたびにお世話になってるよ。やっぱり日系デパートは品ぞろえが豊富だから」
「そ、そうなんですね」
社長の娘だと知られたくなくてヒヤリとした場面もあったものの、それ以上突っ込まれなくてホッ。
そんなこんなで、なんとかかんとか、和やかな雰囲気のまま時間は過ぎて行った。
最後にお店を出るとき、「坊ちゃんが女性をこの店に連れてきたのは、あなたが初めてですよ」、なんて宇津木さんがこっそり耳打ちしてくれたけど……もちろんそれはリップサービスだろうな。
私たちが後部座席に乗り込むと、プロに運転を任せた車はゆるやかに走り出した。
「本当にありがとうございました、素敵なお店に連れてきていただいて」
アルコールが回ったふわふわした気分に任せてへらっと笑えば、「オレが食いたくて付き合わせただけだ」と、貴志さんもくつろいで口元を綻ばせる。
「あんまり女子ウケしそうな店も知らなかったけど、気に入ったのならよかった」
その様子からは少なくとも嫌な時間ではなかったんだなと伝わってきて、嬉しかった。
どうしてこんなに何もなかったように接してくれるのか不思議だけど……やっぱり、私がゴネて騒ぐことを心配してるのかな。
退職のことと合わせて、そのあたりも心配しなくていいって言っておかなくちゃ。
あ、でもその前に……と、私は気だるい身体を背もたれから起こし、隣を見た。