だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

260.私は理想に夢を見た。

「短い間ではあるけれど、よろしくお願いします。それと……お久しぶりですね、公子。お元気でしたか?」
「っぇえ!? お、俺の事、覚え……て……?!」
「……? はい。勿論」
「あ、ありがとうございます光栄です!!」

 少し勝ち誇った気分でにんまりとしていた私。しかし、なんと王女殿下はたった一度会っただけのお兄様の事を覚えていたみたいなのだ!
 確かにお兄様は世界で一番かっこいいお兄様だけど……でもほんの数分話しただけの相手を、お忙しい王女殿下が覚えているなんて。

 恋する乙女のように喜びはにかむお兄様の横顔を見て、私は複雑な気持ちになった。大好きなお兄様の初恋を応援したい気持ちもあるんだけど、でも、私にとってもこれが初恋かもしれないから……。
 そうは思っていても、私は女だしそもそも存在意義を失ったお先真っ暗な存在だ。ならば大人しく身を引いて、大事な大事な宝物としてこの初恋は胸の奥にそっと閉じ込めよう。
 ……とは決めたものの。

「お兄様っ! 何ですか、何なのですかあの方は! 本当に私達の理想そのものっ、というか小説の中からそのまま出てきたようなお姫様は!!」
「だから言っただろう、きっとローズも一目惚れするって。本当に俺達の理想と完全に一致するよね……俺も、初めて見た時なんかもう、言葉を完全に失ってただただ見蕩れていたからな」

 私は興奮冷めやらぬまま、お兄様に向けて捲し立てた。
 王女殿下の前ではずっと我慢していた感想を、身振り手振りお兄様に伝える。私とそっくりな感性のお兄様は私の言葉に激しく同意してくれていた。
 きゃー! と、普段お兄様が街の女性達に向けられるような黄色い叫び声を上げて、私はお兄様と二人で王女殿下の事を語っていた。

 その後、王女殿下がうちの騎士団の団長達と戦って、なんと勝ってしまった。本当に妖精のお姫様とかなんじゃないかなって思うような、まさに風の姿だった。
 大胆不敵に笑う姿はまさに英傑。長髪とドレスをふわりと舞わせて戦う姿はまさに東方の御伽噺。『剣舞の姫』という小説の主人公が現実にいたら、きっとこんな感じなんだろうなあ。と思わず妄想する。

 ──ここで私は決めた。何があっても絶対に王女殿下とお近づきになる! そしてあわよくばお兄様を見初めて貰って、私は王女殿下の妹になるんだ!
 私の初恋は暴走した。理想が煌めき増大し、それは初恋という名分を得て暴れ馬のように手綱を握れなくなった。

 晩餐の時なんかは食事が手につかなかった。何せずっと王女殿下を眺めていたから。
 だって仕方無いでしょ〜! 王女殿下ったら食事をする姿まで本当に美しいんだもの!
 王女殿下だけもはや別世界の美しさで……神話を描いた絵画かな? とお兄様と小声で話していた程。
 その翌日も更に翌日も、私は王女殿下と関わりたい一心で行動を共にした。勿論、お兄様も一緒に。
 街や名所の案内を頑張り、何とか王女殿下にお兄様の事を少しでも知って欲しいと思い、さりげなくお兄様の事もアピールしてみた。

 王女殿下の私達兄妹への態度はとても好意的だった。王女殿下は私達の話をニコニコと聞いてくれていた。私達兄妹が話していると、慈愛に満ちた目で見守っているみたいだった。
 皇太子殿下は常に無表情で、でも不機嫌な事は分かりやすい人だったから……王女殿下が相当演技力に富んだ人でなければ、多分、あの好意的な態度は嘘ではないのだと思う。

 つまり脈アリって事だ! お兄様はとってもかっこよくて頭もいい。テンディジェルの天才児だから、きっと王女殿下のお役にも立てる。
 何よりお兄様は一途だから、相手を裏切るような真似はしない。だから王女殿下にももっと気に入って貰える事でしょう!

 ……ただ少し不安なのが、王女殿下の護衛騎士の方。
 初日の騎士団との戦いでその実力を示し、そしてあの切れ長の瞳が特徴的な端正な顔立ち。街や名所の観光をしている時も、強い男性を好む領民の女性達から彼は大人気だった。
 この領の人達は、妖精の祝福の影響か強い人や美しい人に惹かれやすい。だからお兄様も私もかなりの人気で、昔から求婚が絶えなかった。
 でも私達はその全てを断っていた。当然だよね。お兄様は私のお兄様だし……それに、私達の事を腫れ物のように扱う領民と結婚したいなんて思わない。
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