だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「ねぇアミレスちゃん! もも、もしかして……今までずっと、この領地に来るまで大人の男性二人と旅してたの?!」
「そうだけど……別に何も無かったよ? もし刺客が来ても全然余裕で対処出来たと思うし……」
「そういう事じゃないのぉ!」

 ローズに両肩を揺さぶられる。流石はディジェル領の人ね……見た目からは想像つかない力の強さだわ。ローズみたいな細腕の少女でさえもこの強さとは、本当に恐れ入るわね妖精の祝福。

「男は狼なんだよ、野獣なんだよ! アミレスちゃんみたいな可憐で美しいお姫様はあっという間にパクっとされちゃうんだからぁ!」
「えぇ……狼程度なら瞬殺出来ると思……う、けど……」

 ここで私はある事実に気がついた。
 もしかして、これってさ──。

「……まさかとは思うけど、皆はずっと、私がイリオーデ達に襲われないかって心配してたの?」

 出発前のマクベスタとハイラの様子を思い出す。確かに二人共、『男二人と』旅に出る事に難色を示していた。
 あの時は割と本気で、そんな少人数の護衛で大丈夫なのかと心配されているのだと思っていたし、何ならつい数秒前までそう思ってた。もしかしなくてもあれってそういう意味で反対してたの?!
 全然気づかなかった……いやでもさ、あのイリオーデとアルベルトが? ──はは、ナイナイ。

「お呼びですか、王女殿下?」
「何かお申し付けがあれば承りますよ、主君」

 私がうっかり呼んでしまったが為に二人がこちらに意識を向けて来た。この時私は、二人へと返事をするよりも先に本音が転び出てしまったのだ。

「こんなイケメン達がたかだが十三とかの子供を? いやいや……マジで有り得ないわ……」

 歳の差だって十歳くらいあるのよ。彼等はもう立派な大人なんだし、何よりこの圧倒的な顔面だ。私のような子供相手にどうこうしようなどという気さえ起きない事だろう。
 もし万が一彼等がロリコンだったならその限りではないと思うけど、多分そんな事はないと思うので問題はない。
 なんだ、やっぱりマクベスタとハイラの杞憂じゃないの。そもそも忠誠心も深い彼等がそんな主に手をかけるような真似をする訳ないじゃないの〜〜。
 恐ろしい事実に気づいてしまったが、しかし私はこれを簡単に解決。見事悩みを一つ減らすに至った。

「……一体何の話ですか?」
「俺達が何か至らぬ事をしでかしてしまったのでしょうか……?」

 先程から情緒不安定な私の様子を見て流石に心配になってきたらしく、イリオーデ達は眉尻を下げてこちらを見つめている。

「何でもないよ。ちなみに後学の為に聞きたいんだけど、貴方達は小さい女の子とかって好き?」

 何を思ったのか、私はこのような質問を投げかけていた。
 するとどうだろう。イリオーデは『小さい女の子…………??』と考えていそうな困惑した面持ちになり、アルベルトは『どういう意図をもって主君はこんな質問を?』と深く思い悩んでいる様子だった。

「深い意味は無いのよ。ただ、うん。二人の守備範囲が気になったというかなんというか」
「「守備範囲」」

 二人は声を重ねた。

「こと色恋においては、いわゆる恋愛対象がどれ程の系統・年齢層まで含まれるのか……と言った使い方をされる言葉ですよね、アミレスちゃん」
「わぁ、ローズも詳しいわね」
「ふふ。本ばかり読んで生きてきましたので」

 自慢げに語るローズを見て、微笑ましい気持ちになる。ついうっかり使ってしまったが、どうやらこの世界でも守備範囲は同じような使われ方をしているらしい。

「恋愛対象……つまり王女殿下は我々に、自身より遥かに歳下の少女を色恋の対象として見られるのかどうかと問うてらっしゃるのですね。ようやく理解が追いつきました」

 イリオーデが私の質問の意図を汲んでくれたようで、彼の結論にアルベルトも「やるじゃないか、騎士君」と感嘆していた。それに、イリオーデは相変わらず「イリオーデだ」と突っかかっているけど。
 ……それにしても、イリオーデとアルベルトはいつもあのやり取りしてるなぁ。そんなに覚えにくい名前って訳でもないのに、何でアルベルトは何回も間違えるんだろう。
 アルベルト、かなり記憶力も物事の吸収もいい方なのに……どうして?

「正直な話、私にはまだ恋というものの経験が無いので答えようがありません。申し訳ございません、王女殿下」

 伏し目がちにイリオーデが答える。
 この顔で初恋もまだだなんて。嘘でしょ……この顔で、ただの一度も?!

「俺も同じです。弟の事があったのでそれどころじゃあなくて──ああ、でも。主君がお望みとあらば、恋愛の真似事でも色仕掛けでも何でもやりますよ」
「……そんな事、全く望んでないわ。貴方達の尊厳を軽視するような命令なんて、する訳ないじゃない」

 私はムスッとしながら反論してしまった。しかしこれは、アルベルトからそんな風に思われていたのかと怒ったのではなく、かつてアルベルトにそういった非道な事を強要していた、どこぞのクソ貴族に対しての怒りだ。
 アルベルトがこんな事を当然のように口にするようになってしまった経緯に、私は怒りを抱いたのだ。
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